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ビッグデータとは?
テクノロジーの進化により、多種多様で大量のデータが日々至る所で発生し、あらゆる形式であらゆる場所に散在されています。
「ビッグデータ」と聞くと、 その名の通り大量のデータを直感的にイメージする人が大多数であるとは思います。しかし、データ量の多さはあくまでビッグデータの一側面に過ぎません。
ビッグデータは、どの程度のデータ規模かという「量的側面」だけでなく、どのようなデータから構成されるか、あるいはそのデータがどのように利用されるかという「質的側面」も重要視されています。
この「量的側面」と「質的側面」は3つのVで評価されることが一般的です。
具体的に言い換えて説明すると、Volume(量)・Velocity(速度)・Variety(多様性)という3つのVを兼ね備えたデータ群こそが、ビッグデータとして扱われます。Volumeはデータの量とその処理能力を、Velocityは変化の早さとそれに追従できる更新頻度を、Varietyは構造化されていない多様なデータであることを表します。これらについては、後の章で体系的に説明します。
量や速度、種類に関して、ビッグデータか否かを判別するための明確な定義はないものの、大量かつデータの記録・更新が高速で処理されるリアルタイム性のあるデータ、多様な種類のデータである必要があるとされています。
すなわち、「絶え間ない変化を伴いながらリアルタイムに生み出される多種多様な大量のデータ群とそれらを分析・処理する技術」がビッグデータとして定義されるものです。
このビッグデータの性質上、ビジネスにおいては多種多様な業種での活用が可能であり、活用方法次第ではときには大きな影響を与えることもあります。近年のテクノロジーの著しい発展により、各ビジネスシーンに応じた膨大なデータの収集・加工・分析が容易になったことで、ビッグデータのビジネスへの活用は顕著な進歩を遂げています。
Volume
まず、「Volume」については、「ビッグデータは、典型的なデータベースソフトウェアが把握し、蓄積し、運用し、分析できる能力を超えたサイズのデータを指します。ビッグデータは、多くの部門において、数十TB (テラバイト:1TB=1000GB) から数PB (ペタバイト:1PB=1024TB) の範囲に及ぶ」との見方があります。
例えば、購入履歴を例に取ると、ある人があるモノを一回購入した際のデータから分かることは極めて少ないが、多数の人の多数の購入履歴を分析すれば、集団 (消費者) の購買行動の傾向を見いだすことができます。これにより、消費者の将来の購買行動を予測したり、更には広告等で販売を促進することで、購買行動を誘引したりすることが可能となります。
Variety
「variety」については、先ほどの購入履歴の例で説明すると、購入者の年齢や性別のみならず、住所や家族構成、更には交友関係、趣味、関心事項といったデータが入手できれば、より緻密な分析が可能です。
たとえば、SuicaやPASMOなどの交通系ICカードで言うと、店舗での購買履歴に加え、電車などの公共交通機関の乗車記録がわかります。会員の属性データと紐付けられているケースが比較的多いことから、駅ビルや鉄道会社と提携しているスーパーやデパートなど店舗での購買履歴と合わせれば、「”どのような”会員が”いつ”、”どの”路線を使って”どの”駅から出発して”どの”駅に到着し、”何時”まで”どこ”で”何”をすることが多い」といったような会員行動を深く分析できます。
また、スマートフォンを常に携帯していれば、今日一日のうち何時頃にどのような所へ行き、どれだけ歩いたのか、階段は何階分上がったのかといった現実世界でのデータも収集できます。時間・場所・行動等に関するより細粒化されたデータは、この点の価値を更に高めることになります。またこの点において、警察や公安の角度から見れば、犯罪抑止といった社会的課題の解決にも繋がります。
超大雑把に言うと、現代の情報化社会では、私たちのありとあらゆる行為がデータになり得ます。
Velocity
データの発生頻度や更新頻度 (1日や1秒あたりに得られる標本数) といったデータ取得の速さもビッグテータの特性の一つです。
ビッグデータ活用のメリット
ビッグデータを収集・分析し活用することで、将来の予測や異常の検知といったビジネスや社会に有用な知見の獲得など、会社の経営及び業績に直結する成果を膨大に産み出せるといわれています。
例えば、以下のような成果を上げることができます。
- 経営や営業の業務フローの効率化・最適化によるコストの削減
- 商品の組み合わせ変更による売り上げの最大化
- 顧客のニーズ合致した商品・サービスの提供
- 将来の売上予測
- 事業の課題箇所の特定と解決
- 新たな仮説や可能性の発見
業界によって、ビッグデータの活用方法と効果が違いますが、基本的には下記3つのメリットが期待されます。
- 正確な現状把握が可能
ITが発達していなかった過去の時代では、企業は人の経験や勘に頼り、経営の現状を把握することが多かったです。しかし、ITの進歩が目覚ましい現代においては、社内に蓄積・分散された様々なビッグデータを収集・加工・分析し、経営に必要な情報を可視化することが容易になりました。ビッグデータを分析し可視化するといった方法で活用することにより、経営層は組織全体の経営状況を、従業員は特定の業務の進捗状況を多角的かつ客観的な視点で知ることができるようになり、経営の意思決定も多角的かつ客観的に行えるようになります。 - 新しいビジネス (新商品や新サービス) 創出のヒント
既存製品とサービス、バイヤーとサプライヤ、消費者の好みに関する情報 (ビッグデータ) を収集して統合的な分析を行うことで、新商品の開発や新サービスの創出といった、企業が新たなビジネス機会を発見するためのヒントを得ることができます。 - 課題の解決策の発見
ビッグデータを活用することで、物事の法則性や異常を見つけ出すことができ、潜在的な課題及びその原因の特定が容易になります。その結果、迅速に適切な戦略を取ることが可能となります。また、特に新規サービスや施策の効果をビッグデータを分析することによって検証し、より有効的な施策を早期に発見し、打つことができるようになります。
ビッグデータの具体的な活用事例
ビッグデータは業種ごとに様々な種類が活用されており、IT化が進んだ現代では、ビジネスにおいて必要不可欠な存在となりました。以下では、業種別にビッグデータの活用事例をご紹介します。
小売業
小売業では、商品の出荷データ、店舗別・地域別の売上データ、店内カメラのデータ、地域の天候データといったあらゆる市場に関するビッグデータを収集・取得し解析することで、マーケティング戦略や商品売上増大、在庫管理の適正化、新製品の開発、その導入タイミングの検討など、これらを達成することによるビジネス規模の拡大などを目的としてビッグデータが活用されています。
活用シーン:
- 売上データ、顧客データなどを統合したビッグデータを駆使することで、顧客をパターン別にこまかく分類し、セグメント毎に適切なマーケティング施策を行うといったマーケティング活動の最適化
- 商品の需給予測の精度を向上させることで市場に受け入れられない製品の投入を避けたり、売れ筋や死に筋商品を分析することで、在庫の保有コストの影響を最小限に押さえるといった効率的な供給を実現するための需要分析
活用事例1.ヤクルト社:自社商品による顧客の奪い合いを解消して売り上げ20%増加
ヤクルト社の商品は1つのカテゴリに150点も存在し、店頭で顧客を奪い合っていました。またその組み合わせを分析し最適化しようにも、俗人的に作成されたスプレッドシートが社内に分散していました。
そこでそれらのデータを一元管理し分析したところ、15本パックと7本パックは購入する顧客層が異なるため、並べて販売すると両方の売り上げが増加するということを発見しました。そしてこのような分析と改善を繰り返した結果、20%の売り上げ増につながりました。
参考:ヤクルトの売り上げを大幅に伸ばしたデータアナリティクスの秘密|ITmedhiaエンタープライズ
活用事例2. ローソン:売上31位のほろにがショコラブランを売り続ける理由
ローソンはポンタの導入により、ビッグデータの分析が進んでいます。分析の結果、例えばほろにがショコラブランが「1割のヘビーユーザーが6割の売り上げを占めている」と分かりました。その分析結果をもとに、リピート率の高いほろにがショコラブランは、今も継続的に販売されています。
このケースでは、ビッグデータを活用することで、短期的に見ると売上の低い商品を、他の商品と比較しつつ長期的に観察することで、仕入れの最適化を行っています。扱う商品数が増えれば増えるほど、仕入れの管理は困難になるため、効率よく仕入れの最適化を行う上で、ビッグデータを活用が重要性を増してきます。
参考:今注目をあつめる「ビッグデータ」活用事例|feedforce全力ブログ
活用事例3. TRUE&CO:自分の体にあったブラをオンライン購入できるシステムを開発
TRUE&COは、過去の顧客の注文と返品データを分析することで、メーカーによるサイズのばらつきなどを数値化し、オンラインで、自分の体にフィットするブラジャーを購入できるシステムを開発しました。ユーザーは初回アクセス時に日頃着用しているブラジャーのブランド名とサイズ、好みのフィット感、服のサイズなどの情報を入力することで、以降は、その人にフィットする商品のみが表示されます。
このように、精度の高いパーソナライズを実現するためにもビッグデータは活用されています。
参考:ビッグデータ活用で売上を伸ばすオンライン小売業の成功事例|JNEWS.com
活用事例4. ダイドードリンコ:アイトラッキング分析と
購買データの組み合わせで売上が前年比1.2%増
ダイドードリンコでは、「ユーザーの視線は左上からZ型で動いている」というZの法則に従い、主力シリーズ「ブレンドシリーズ」を左上に配置していました。しかし、自動販売機にアイトラッキングデータを分析したところ、自動販売機に限っては下段に視線が集まることが判明し、Zの法則が覆る結果となったのです。
これらのデータを参考に、その後、自動販売機の人気製品を下段に陳列したところ、売り上げが前年比1.2%増となりました。このように常識と考えられている事柄も、ビッグデータを分析することで覆る可能性があります。
参考:これまでの常識をくつがえすビッグデータ分析シリーズ ~第一回:常識にとらわれない発見で売り上げ増加~|ビッグデータマガジン
飲食業
競争が激しくなる飲食業界では、市場地位を維持するためにデータドリブンの経営戦略を設定する企業が増えています。過去、レストランは顧客の来店を待つだけだっだの状態ですが、飲食店の情報をビッグデータ化すれば、来店客数を予想でき、リピート顧客を増やすためのサービスや販促活動を調整することができます。
活用シーン:
- 付近で飲食店を探している人のスマホに、近隣の飲食店の広告を効果的に投入
- センサーによって店内での行動をデータ化し、現場のオペレーションを大幅に改善
- や高精度な来客予測や売上予測、過去の売れ筋分析によって、生産者が出荷量調整可能
活用事例5. スシロー:皿にICタグをとりつけ、レーンに流れる寿司の鮮度や売上状況を管理し売上向上
スシローはすべての寿司皿にICタグをとりつけ、レーンに流れる寿司の鮮度や売上状況を管理しています。どの店で、いつどんな寿司がレーンに流されいつ食べられたのか、どのテーブルでいつどんな商品が注文されたのかなどのデータを毎年10億件以上蓄積することで、需要を予測し、レーンに流すネタや量をコントロールしています。
スシローのケースのように需要を予測することは、ビッグデータの代表的な使い方のひとつと言えます。需要を予測するということは、機会の獲得や無駄コストの削減につながるため、直接的に利益に跳ね返ります。
参考:ビッグデータの高速分析で、隠れていた課題や問題点を可視化回転寿司業界のNo.1を支える迅速な経営判断と店舗オペレーションを実現|アシスト|
鉄道業
ICチップ付きの交通カードは、駅の改札をタッチしたときや買い物をしたときに、鉄道会社にその情報が顧客データとして送信・蓄積され、鉄道会社が運営している様々な事業に活用されています。例えば、鉄道会社の中には旅行業も営んでいる場合がありますが、そうした旅行商品のマーケティングなどに役立てられています。
旅行業
旅行業界は、主に顧客の観光地への興味と、その行動特徴に基づいてビジネスを展開しています。そのため、世界中の観光地と観光客の情報をビッグデータとして収集し分析することで、旅行需要の予測に活用することができます。
活用シーン:
- 口コミ分析や顧客の検索キーワード分析で、観光地の人気度を評価
- GPSや交通、天気の情報に基づいて、見込みの高い顧客に効果的なオファーと特典を送信可能
事例7. 城崎温泉:観光客のニーズをつかみ売上増
城ヶ崎温泉は、携帯電話やスマートフォンをお財布代わりに使えるシステムを導入することで、観光客の利用履歴を蓄積し、定量的な分析を行いました。何時頃に観光客が多いか、人の組み合わせは親子連れが多いのか、男女ペアが多いのか、また、どこの外湯が一番人気なのかといった消費者のニーズを分析することで、より効果の高い施策を実施したり、温泉街の街づくりやサービス、広報の方法などの改善につながりました。
参考:ビッグデータ活用の本質とその進め方~城崎温泉の事例にみるデータ活用のポイント~|salesforce
製造業
製造業はIoTの導入が進んでおり、その中でビッグデータの活用も盛んにおこなわれているのが特徴です。主な目的としては生産性の向上や品質改善に活用されています。
活用シーン:
- 設備の予知保全:センサーデータの可視化により、工場全体、ラインごとの設備稼働状況、故障の多い設備を把握し、設備の異常を早期発見、製造プロセスを改善
- 予実管理:当初の計画に対して実績が合致しているか、目標と実績の差を認識し、徹底的に原因をデータ分析し、生産計画の改善に活用
- 製品トラッキング:バーコードスキャナーと無線デバイスを利用し、原材料の調達から生産、そして消費または廃棄まで追跡が可能
活用事例6. Intel:データから品質チェックのテストに掛ける時間やコストを削減
半導体メーカー大手の「Intel」では、チップ製造中の履歴データを品質チェックに応用しています。履歴データを参照することで、品質チェックに掛けるコストをなんと300万ドルも削減できたそうです。
参考:Intel Cuts Manufacturing Costs With Big Data – InformationWeek
活用事例7. 大阪ガス:コールセンターの依頼内容から修理に必要な部品を割り出す
大阪ガスは、過去数百万件にわたる修理履歴や機器の型番データを保有しています。また、コールセンターに寄せられる給湯器などの修理依頼の内容も同時に蓄積しています。これらの情報を組み合わせることで、ケースごとに必要となる部品を自動的に割り出すことに成功しました。
このケースでは修理作業員が行う作業を自動化するためにビッグデータが活用されています。人件費はサービス業においてウェイトが重いため、非常に有効な活用法であると考えられます。
参考:ビッグデータを価値につなげる活用事例15(その1)IT Leaders|
EC業
EC業界において、ビッグデータはデータ分析やデータマイニングを通じて法則を導き出し、その法則性に基づいて顧客に商品やサービスの最適な販売促進を施策することで、企業に持続的な競争優位性をもたらすことを可能にします。
活用シーン:
- 流入元とサイト内の顧客の行動データを組み合わせることで、効果的な集客チャンネルと販売促進活動の発見
- 購買データ、競合他社の価格、商品原価などのデータによって、商品の適正価格を決定
- 顧客の嗜好や過去の行動履歴に基づいて、その顧客に最適な商品だけを推薦
活用事例8. 楽天:レコメンドだけでなくランキングの更新頻度とジャンルの細分化で売上向上
楽天は、自社のビッグデータを分析したところ、ランキング頻度が高いほど売上は増加し、ジャンルが細かいほど全体の売上があがるという結果を得ることができました。そこでこの結果に基づいて、更新頻度の短縮とジャンルの細分化といった改善施策を打ったところ、大きな成果をあげることができました。
参考:流通BMS.com|楽天の執行役員がビッグデータでEコマースの売上げを急伸させた秘策を公開 ――流通システム標準普及推進協議会 2014年度通常総会――
農業
第一次産業である農業は、農家の経験則と勘に頼る部分が大きかった分野ですが、農作業にビッグデータを駆使しデジタル技術を導入することで、収穫量の予測や生産性向上、生産現場の可視化、ナレッジの共有などが可能となります。
活用シーン:
- IoTセンサーから測定された気温・日射量・雨量データや農作業のデータを解析し、生産計画から収穫・出荷までの一連の工程を可視化
- 気象データを中心とした様々なビッグデータからリスクを予測し、被害を最小限に抑制するための事前の対策を実現
- ベテラン農家の持つ様々なスキル・ノウハウや経験則・勘などデータ化し、そのノウハウを若手就農者等に共有することでノウハウの属人化
このようにビッグデータ活用することで誰でも確実な農作物管理ができるようになりつつあり、参入へのハードルが低くなっています。
活用事例9. 食べチョク:データドリブン経営で農家の収入を予測
株式会社ビビッドガーデンが運営する食べチョクは、ビッグデータを活用してあらかじめ収入を予測するデータドリブン経営を目指しています。作物の品質は収穫時期まで見極めることが難しいため、収入予測がしづらいことが、農業事業者にとっては大きな課題と負担になっています。
今回の取り組みでは、食べチョクで高評価を得ている農家に対し、株式会社Momoが提供する農業向けIoTキット「Agri Palette」を導入し、畑から土壌や空気、日照量といった栽培データを取得します。食べチョクの顧客評価と、上記の栽培データを統合することで、顧客からの評価を予測できるシステムの構築を目指しています。
これにより、新規就農者や新規作付けのリスクを減らし、農業事業者の経済的安定を目指しています。
参考: センサリングサービスとの連携第一弾。農作物ごとの顧客評価と栽培データの統合を通して、予め収入を予測できるデータドリブン農業を構築。
金融業
金融業はビッグデータが長年活用されている業種の一つです。あらゆる顧客接点において取得したビッグデータを統合し、マーケティングに活用しています。
- パーソナライズされたサービスの提供
- クラスタリングを活用したポートフォリオの最適化
例えば、企業が保有する顧客データを分析して、企業に最適な保険サービスを提供するといったことが可能です。また「クラスタリング」といったデータ分析手法を用いて株価動向などに同じような傾向がある企業でグルーピングを行い、最適化されたサービスを提供するといった取り組みにビックデータが活用されています。
活用事例10. 三井住友海上火災保険株式会社:
事故や災害を未然に防ぐ、損害を最小限に抑えるのにビックデータを活用
三井住友海上火災保険は、コンサル会社のアクセンチュアと連携し、新サービス「RisTech」の提供を開始しました。
RisTechとは、「リスク」と「テクノロジー」を掛け合わせた造語で、RisTechを生かしてビッグデータを分析し、 各企業のリスク可視化することで、社会の課題解決に対して新たな価値の提供を目指しています。
近年、グローバル化やIT技術の発展、気候変動による自然災害の増加などで企業を取り巻くリスクは増加傾向にあり、更に厄介なことに驚くほど多様多様です。そこで、ビッグデータをリスク分析に活用した新たな防災・減災サービスのニーズが高まっています。
三井住友海上火災保険は、自社の保有する過去の事故データや、顧客データ、契約に関するデータ、コールセンターへの入電データなどに加え、取引先に蓄積された様々なビッグデータを組み合わせ活用することで、企業のリスク分析を行います。その後、アクセンチュアや提携先のデータサイエンティストがレポートの提供やリスクモデル開発などを行います。
三井住友海上火災保険では、RisTechを通して各企業のビジネスにおけるリスクを予め分析することで、事故や災害を未然に防いだり、企業課題に対して事前に取るべき最適な予防法や対策方法の提案など、従来の保険会社の枠組みにとらわれずに社会の課題解決を担っていきたいとしています。
参考:損害保険会社の社会貢献を見据えた新サービス「RisTech」~企業のリスクをビッグデータ解析で可視化・最適化し、課題解決を図る
銀行業
金融業の中でも銀行業では、ビッグデータが長年活用され、既に競争戦略上欠かせないものになりました。
今や実店舗以外にも、インターネットバンキングなどネット上における顧客接点が多数存在するため、さまざまな顧客データを取得できます。また、現金の回収から財務管理まで、ビッグデータは銀行業のあらゆる業務を効率化します。
活用シーン:
- クラウドコンピューティングで、リスク計算のデータ処理にかかるコストを削減し、リスクマネジメントの効率性向上
- 顧客データの収集・分析を通じて、より一人一人に合致した個別サービスを提供
- クラスタリングなどで、新たに出店する支店の場所選定などの重要な決定の精度向上
医療業
毎日大量かつ複雑な非構造化データを生成する医療業は、ビッグデータ技術により、医療情報活用の幅と可能性が広がります。
活用シーン:
- 流行病の発生を予測し、被害を最小限に抑えるための有効な予防策を決定
- IoTを活用したウェアラブルデバイスを使用することで、ビッグデータに基づいたAIが患者の健康状態を監視し、医者にレポートを自動送信
情報通信サービス業
活用事例11. 株式会社メルカリ:メルカリが挑む「逆算のモノづくり」
フリマアプリの「メルカリ」は、メルカリが持つ二次流通データとデパートといった新品を販売する一次流通企業が保有する商品データを組み合わせ、商品のライフサイクルや顧客の行動を可視化する取り組みを始めました。
自社が販売した製品が中古市場でどの程度の価値があり、流通しているのか、このようなデータを活用することで、メーカ側にとっても、より「消費者が買いやすい商品づくり」に活用できることが期待されています。データを活用して商品の需要を予測し、廃棄を減らすといったモノづくりのきっかけになる可能性もあります。
教育業
教育業とビッグデータも相性がよい組み合わせです。
教育業界では、テストの成績だけでなく、学習や教育現場に関する様々なデータが蓄積されています。例えば、学習履歴や行動履歴などのビッグデータを収集し、可視化・分析することで、各学生の将来の成績予測や学習の効果測定を行うことができます。そのため、昨今では多くの国で、教育機関でのビッグデータの活用が盛んになりつつあります。その他にも、学習履歴を分析して一人一人に合わせた教育を行ったり、特性を把握して適した職業を判断するなどの取り組みが次第に行われてきつつあります。また、このような教育データの蓄積が学習教材の最適化・改善にも繋がっており、将来的には個々の学力に適した高品質な教育を行えるようになるかもしれません。
活用シーン:
- 学習履歴のデータを使用し、一人一人に合わせ最適にカスタマイズされたコースとスキームを作成することで、生徒の成績を改善
- 学習コースが受講者にとってどの程度有益かをリアルタイムにモニタリングすることで、教材を修正し最適化
- 生徒の学力データ、学習履歴データを分析することで、各生徒の進歩・得意・苦手・興味といった生徒個人の特性を理解・把握し、将来学生に適した職業を診断
活用事例12. ベネッセ:学習データを解析し子どもの学習支援に活用
教育事業大手の「ベネッセ」は今まで、アンケートや観察といった手段でユーザーのデータを集めていました。そして昨今の教育のデジタル化により収集されたビッグデータが将来的に事業に活用できるか検証するために、デジタル教材の学習記録分析を開始しました。
具体的な活用方法としては、小学校から高校までの全12学年の子どもの学習記録を教材設計に役立てたり、データを蓄積して子どもの将来の到達点を予測するといった使い方が想定されています。
そして、子どもの学習プロセスについて、教育関係者がデータで広く確認できるように公開を行っていくそうです。
参考:「ビッグデータを活用した教育研究の取り組み」について|ビッグデータを活用した教育研究│特集│ベネッセ教育総合研究所
政府・行政
政府の公共事業でもビッグデータの活用場面が次第に増えつつあります。
たとえば政治的な意思決定を迅速に行うため、経済成長、エネルギー資源、 出生率や交通情報などの国民の生活に関するデータを追跡することで、対応が急がれる地域・領域を特定し、問題解決に最適なアプローチを考案・実行といった取り組みが日々行われています。
一方で行政が保有しているビッグデータを企業に対して開示することで、ビジネスへの利活用を促そうという動きも起こっているのがポイントです。
活用シーン:
- 地域・領域の課題を発見し、政治上の迅速な意思決定を実現
- 失業、テロリズム、エネルギー資源探査などの国家的課題の克服
- 行政が保有している地理空間情報や防災情報なといった公共データを、二次利用しやすい形で民間に開放することで、ビジネス利用を促進
活用事例13. 埼玉県:カーナビデータを収集し交通安全対策に活用
埼玉県は24時間の平均交通量が全国4位だったりと、交通量が伸びているのに道路整備が追い付いていない課題を抱えていました。そこで自動車メーカーの「ホンダ」と提携し、上記の課題解決を図りました。
ホンダのカーナビシステムはリアルタイムで自動車に関する情報を収集可能で、これを活用して車の通過時間データや急ブレーキ発生データなどを分析しました。
これらのビッグデータの分析結果に基づき、「街路樹の剪定で見通しをよくする」、「路面標示でスピード抑制を行う」、「注意看板を設置する」といった対策をしたところ、 結果的に1 か月間の急ブレーキ数が70%減少、人身事故件数が20%減少といった人命にかかわる大きな成果が得られました。
参考:クリエイティブ ぼうそう 第88号ー特集「ビックデータとオープンデータの利活用」|千葉県市町村総合事務組合 千葉県自治研修センター
ビジネスにおいてビッグデータを活用する上での課題
ビッグデータとAIが結びつくことで、ITに大きな可能性が開けました。しかし、いくらビッグデータの技術をもってしても、あらゆる問題を何でも際限なく処理できるわけではありません。そこには課題も残っています。主な課題には次のようなものがあります。
- ビッグデータの安全な取り扱い
多くの企業が扱うビッグデータには、顧客の様々な個人情報が含まれているケースが多く、それを安全に取り扱う万全のセキュリティが必要となります。企業による個人情報流出が定期的に起きていることから考えても、現状では課題として残っていることがわかります。 - データ加工の難しさ
ビジネスにおいてビッグデータを活用するには、まずは膨大なデータをどうやってどのように加工するのかを考える必要があります。ビッグデータを活用するには、多くの場合、企業で保有するデータのみではなく、オープンデータを併用する必要があります。それぞれのデータは均一な形式で保管されておらず、重複データや、テキストの誤字・表記ミスといった不完全なデータも多く混在しているため、精度の高い結果を出すに莫大な時間と高度な技術力でデータを分析できる形に加工修正することが必要となります。 - 膨大なデータに対応できる環境
IoTは恐るべきスピードで普及しています。それにともない、扱われるデータの量も爆発的に増加しています。この膨大なデータ量に対応できる環境を構築することは、ビッグデータを活用するうえで必要不可欠です。さらに、ビッグデータの活用ではリアルタイム性の重要度が高くなっているため、処理速度も求められます。処理速度を向上させるためには膨大なデータに耐えうるトラフィックとサーバーの性能が必要となります。 - データサイエンティストの育成
ビッグデータを活用する対象範囲が劇的に広がり、データサイエンティストの需要が飛躍的に向上しているため、現在日本ではデータサイエンティストの供給が追い付いていません。データ分析だけでなく、ビジネスやコミュニケーションスキルといったものから、統計学の知識やプログラミングスキルまでも求められるデータサイエンティストの育成が急務となっています。 - ビジネスへの活用方法
データを分析した結果をいかにビジネスに活かすかという点でも課題があります。膨大なデータの中から自社ビジネスに有効なデータを見つけることに苦労するケースや、データをたくさん収集することが目的となってしまい、その後のビジネスへの応用の仕方が分からず行き詰まってしまうケースも多く、最悪の場合、データ分析といった本来の目的であるビッグデータの活用を放棄してしまうケースもあります。
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